パグのアリスがやってきた 前編
2022.08
8月7日、日曜日。わが家にパグの「アリス」がやってきた。
2005年から一緒に暮らしていたパグの「いぬやま」は、2020年の春、15才のお誕生日を待たずに、宇宙へと帰っていった。とても悲しくて、淋しくてつらかったけど、愛される充実感はいつまでも色褪せず、心を癒した。悲しい時、感動するのだ。こんなに好きだ、会えてよかった、ありがとうって。
パグという犬種はとてもユニーク。明るくて、ノリがよくて、おっちょこちょいで食いしん坊。おおらかで、家族思いでやさしい。ちょっとした変化に気づいて、おもちゃで囲んでくれたり、ただ静かにお尻をくっつけていてくれたり。とにかく、全部で愛してくれる。
だから、そんなパグとの暮らしが恋しくて、またいつかパグと暮らせたらいいなぁって、漠然と思ってた。
時々、ペットショップをのぞいたり、近くにパグのブリーダーっているのかな、とか調べてみたり。ほんとうに何の気なしに、していた。もちろんとってもかわいい子はいたけど、なんとなく現実味がわかなかった。
夫は、いぬやまの魂をもった犬や、いぬやまの思し召しで出会う犬なら、自分は会った瞬間にわかるはずだと言う。 夫のそういうところが好きだ。わたしみたいにぐずぐずと、理由を探して悩まないのだ。私も確かに、そういう出会いがあればなんとなくわかるだろうという気はする。でも、夫ほど確信はない。そうだと思う理由を必要としちゃうところはあるだろう。
7月31日、夫も出演する市川淳之介バンドのワンマンライブを観に、新潟県三条市のライブハウスに行ったとき、わたしの大好きな愉快な夫婦、松千代さんとたまごかけごはんさんにお会いできた。嫁ちゃんのたまごかけごはんさんが「はなさんに会えたら渡そうと思っていた」と、カバンから袋を取り出してわたしにくれた。おふたりは、いつ会えるかもわからない遠くのわたしに贈り物を持っていてくれたらしい。びっくりした。めちゃくちゃ嬉しかった。中身はなんだろう。
袋の中身を取り出してみると、たまごかけごはんさんがまるてんを描いてくれた紙と、キーホルダー。 パグのキーホルダー。とんでもなくおどけた顔をした、めちゃくちゃかわいいパグのキーホルダー。わぁ!パグだ!いぬさんだ!わたしは声に出してそう言った。いぬさんみたい、いぬさんだ、いぬやまみたいかわいいかわいい!
そのときなんだかハラハラと、わたしを結んでた紐がほどけていくような感じがした。いぬさんじゃないんだけど、いぬさんだって思った。わたしはいぬさんを失ってから、パグのぬいぐるみとかブックエンドとかクッションとか、買おうか悩んで買わなかったパググッズがたくさんあった。だっていぬさんじゃないからだ。頑なになってしまっていた。知らず知らず、亡きいぬやまとの向き合い方がわからず、戸惑いの中にいたのだ。そのときわたしの手の中のキーホルダーはただかわいくて、わたしはただ「いぬさんだ」と言った。なんていうか、「いないいぬやま」から「いぬやま」に戻った瞬間だった。
松千代さんも、たまごかけごはんさんも、そんなつもりなかったと思うけど、巡り合わせだった。心がかるくなった。「愛犬を失った人」から抜け出せた感覚。いぬやまもさぞ安心したと思う。
それから何日かして。トイレでスマホをいじっていたら、里親募集サイトの広告が出てきた。 わたしはいつもより少しどきどきしながら、そのリンクへと飛んだのでした。
略してフラマン。THE BAUM、NIGHT OWLのメンバー。