FLOWERMOUNTAIN 『まくらもとノート』
 

わたしは庭でロバを飼いたい①

2019.10.21

 タイトルの通り、わたしは庭でロバを飼いたい。

 いま、わたしの家には犬2匹と、猫1匹が同居している。最年長は14才の犬のいぬやまで、いぬやまが7才のときに、2匹目の犬、マシューを迎えた。それから3〜4年経ったころ、わたしは母にこんなことを言われた。

 「あなたは犬好きだから」 

 その一言に衝撃を受け、わたしは“自分は犬が好きなのだ”ということを知った。なぜじぶんで気づけないのか。そして、それから、わたしの犬好き生活が始まった。とはいっても、自覚が芽生えたというだけのことなんだけれど。

 年をとるにつれて、焦点を絞るように好みが変わってくるらしく、特にわたしは自然や動物に趣を感じるようになった。中でも動物のおもしろさや美しさは、放っておけないものがある。サファリパークに行きたいと騒ぎ出したのは35歳を過ぎてからで、至近距離で見た動物は楽しく、同時にその生き様に胸がいたくもあった。自然界に自然に生きていない動物とのふれあいは、子供のそれと大人のそれでは全く違う経験になるのだろうなぁなんて思った。それはさておき。

 私が心から「良いなぁ」と思うときは、あらゆる側面の存在を知った時。この世はバランス。そのものが持つバランスが、わたしをドキドキさせてくれる。整っているのがいいというわけでもなく、いびつなほど愛着が湧いたり、共感できたり、はっとしたりしてしまう。自己肯定感のよわいわたしは欠けこそ愛でる傾向にあり、突出するものに憧れを抱く。

 人間社会をのぞいてみれば、その世界も間違いなくそんな愛すべき凹凸でいっぱいなのだけど、動物の場合それがとってもわかりやすい。しかも犬は、そんなこと全部関係なく、わたしのようにわたしを分析することなく、無条件にわたしを大好きでいてくれるから、わたしを楽しませ、安心させてくれる特別な存在。

 生物学的にはきっと妊娠・出産に最適な時期も過ぎ、愛情を持て余す感覚になることがあって、まぁそんな身勝手に誰も付き合う義務はないのだけれど、そんなわたしの興味をググッと引いてきたのが、他でもない、ロバだった。

 まずときめいたのはその完璧なまでにいまいちなフォルム。大きな頭に、ナスみたいにずんとした胴体と、あれっ?って感じに短い脚。いらなくね?ってくらいちょっとだけ生えた毛。なんとも言えない、おとぼけた可愛らしさ。ぱこぱこ動く鼻の穴。馬という似て非なる存在があってこその、これじゃない感じが最高に、イイ。子供のロバや大人のロバ、茶色いロバに白いロバ。色々見るうちに気づいたことがあった。“この大きさなら飼えるのではないか”。

 はしゃいでいるロバに、歌うロバ、背中にめちゃくちゃな高さの荷物を積み上げられているロバ、再会を喜んで泣いてるように見えるロバ。あらゆるロバの側面を動画で見るうちに、ロバとの生活を考えるようになった。庭に出て、おはようと言って背中を軽く叩いたり、なでたり。あたまを垂らして先住の犬の顔を嗅ぐとか、ドラッグストアまで乗って行ったり、帰りには荷物をくくりつけて、家に戻ったら荷物をほどいて、えらかったね、なんて言って、でかいブラシでこすって水をあげたり。晴れた日はロバの腰にまたがって、うつ伏せに上半身をあずけて日向ぼっこ。きっとハグだってさせてくれる。台風の前や雪の降る日は家の中に入れて、寝そべったロバに寄りかかってテレビを見る。たまには意味もなく家に入れて、夫に注意されたり。最高じゃないか!なんてほのぼのとした生活!

 当初は夫が中古だが夫専用の車を手に入れたところで、わたしは早速「わたしはこれ」という感じで夫にプレゼンした。まずは画像を見せる。とっておきの可愛いやつだ。わたしが飼いたい、目の周りが白っぽくて、体が焦げ茶色のやつを中心に。かわいいよねぇ、お庭にいたらさぁ、楽しいよねぇ。夫もまんざらではない様子。ここで交渉が本格化していく。
 1坪くらいの土地があれば飼えるらしい、干し草の餌代は月3000円程度らしい。手軽だよねぇ。ウンチもポロポロのやつで、中身は草だし庭はそんなに汚れないらしい。何しろロバは、とっても賢くて優しい動物で、古くから人間と一緒にやってきた動物なんだよ。なにしろね、乗れるんだよ。すてきでしょ。いくら(値段)くらいで買えるらしいんだけど。わたし飼いたいんだけど。

 ここで夫は「いいよー」と言った。夫と知り合ってからこの時点までの約16年間で、彼が反対したのはタトゥーだけだ。

 しかし生き物を飼うのには、責任というものがある。いいところばかり言って、揉めてしまえば夫婦の危機。ロバ以前の問題になりかねない。なのでわたしは問題点もしっかり伝える義務があった。「ただね、乗り心地がよくないのと、ちょっと鳴き声がすごい」
 そう、そんなによく鳴く動物でないとはいえ、ロバの鳴き声はなんというか、ちょっとすごい。ロバが鳴いてるね〜なんて思う人はご近所ではまずいないだろう。それを聞いて何か思うとすれば「何事!?」だと思う。
イギリスでは“イーヨー”と表現されるらしい。色々な声を出すのだけど、アー!みたいな声と、息を吸いながらのアー!みたいな声が連続して、ロバによってはだけど、それがまるで喘ぎ声と安いパイプベッドの軋む音みたいで、盛大なセックスの音に聞こえたりもする。でもね、そんなに鳴く動物じゃないよ。

 そしてこの追加情報が仇となり、ネットの動画でロバの鳴き声を確認した夫は「ロバを飼うのには反対」と、寝返ったのである。久しぶりに夫の“NO”を喰らったわたしはムキになり、今日までのおよそ2年、ずっと説得を続けている。続きは、また今度。

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略してフラマン。THE BAUM、NIGHT OWLのメンバー。

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